原匠(2019年/社会活動家)

江畑:慶應義塾体育会バスケットボール部2年の江畑と申します。本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、自己紹介を含め、現在のお仕事や卒業後のキャリアについて教えてください。

原:2019年卒の原です。卒業後は新卒で金融業界の企業に就職して主に営業を行っていました。その後、自身のメンタル不調を機に会社を辞めて現在は主に学生向けのメンタルヘルスケアの普及啓発活動を実施しています。具体的には小学校から大学といった現場で、メンタル不調に関する当事者講演やワークショップを開いて自身のストレスやセルフケアについて考えてもらうといった活動を行っています。

江畑:今までにインタビューさせていただいたOBの方々とは一味違うお仕事をされていて、いろいろ気になる点も山々ですが、学生時代から流れに沿ってお伺いさせていただきます。慶應義塾大学にはどのような経緯で進学されましたか。

原:元々、慶應への受験などは考えたこともなかったのですが、バスケ部の顧問の先生にAO入試の存在を紹介していただき、文武両道や学生主体で活動しているチームという点が自分に向いているのではないかと提案をしていただいたのがきっかけです。

江畑:実際にチームに入ってみて、抱いていた印象とのギャップは感じましたか。

原:元々あったイメージが大きく崩れる事はなくて、各代それぞれ色があり、尊敬できる先輩方ばかりでした。その先輩の背中を見ながら良いチームを作っていきたいと思える環境でしたね。

入学当初から同期の鳥羽(2019年卒/2022年度HC)や澤近(2019年卒/2022年度AC)はAチームの練習に入り、先輩方に食らいついていく姿を近くで見ていました。このままだと差は広がっていく一方で焦りのようなものもあったんです。そういった時期に多面的にサポートをしてくれた先輩達の存在は今でもとても印象に残っています。僕と似た境遇の先輩もいて、「今の場面、自分だったらどうしていたか考えときな。」と声をかけてくれたり、練習後にご飯やカラオケに誘ってくれて、「最近どうなの?」と相談に乗ってくれる先輩の存在が当時の自分にとってはすごく大きかったです。

1年生時、4年生の中島先輩(2016年卒)との一枚
写真提供:原匠氏

上級生になると、プレータイムも獲得していきプレイヤーとしての成長を感じることができていました。そこに至るまでの背景をチームメイトからも評価をしてもらえて、チームの副将を任せてもらえるようにもなりました。

しかし、当時のチームで起きていた出来事や状況を見た時、そこで活動をしている自分の姿に違和感を持ち始めてもいたんです。チームを良くしていこうというメンバーの思いに嘘はなかったですし、僕にもありました。簡単に言うと、目指す先は同じだけど向かい方に少し違いがあり、お互いを尊重しきれなくなったという感じですかね。そういった状況に加え、個人的な悩みも積み重なった結果、メンタル不調に陥りチームから離れてしまうことになりました。

江畑:そのような苦悩があったと思うんですけど、4年間走り抜けられた要因は何だったと思いますか。

原:1番はチームメイトの存在でしたね。先ほど下級生の時の話もそうですし、自分の気持ちが沈んでしまってチームからドロップアウトして戻ってくるまでの過程を見ても先輩、同期、後輩に関わらずチームメイトのサポートがありました。そのサポートなしに自分1人で走り抜けることは間違いなくできなかったと思います。

下級生の時期に関しても僕に限らず色々な苦悩や葛藤を抱えている人は他にもいました。その中で必死にやっているけど結果が出ないという人ももちろんいました。ただ、お互いの努力や積み重ねを近くで見てきているからこそ、口には出さないけどリスペクトをし合うような関係性がありました。そういった仲間がいたことが嬉しかったですし、ありがたかったですし、自分もあと少し頑張ろうと思えた要因でしたね。

逆に沈んでいたタイミングはそういう仲間のことを信じられなくなったことが1番辛かったです。自分はチームに必要とされていない、いない方がチームのためなのではないかと本気で考えるくらいに追い込まれていました。その結果、チームから離れてしまうことになりました。

当時は、元の環境に戻ることなんてもうできないだろうと思っていましたが、その考えは良い意味で打ち砕かれました。「なんであいつがそこまで落ち込んでいたのか、戻ってきたいと思っているのかもわからないけど、もし戻りたいと伝えてきた時のためにその環境を残しといてあげよう。」と、同期をはじめ、後輩やチームスタッフを含めた方々がそういう環境を残しておいてくれたんです。それが当時の僕が社会復帰をしていくことができた1番の要因だと思います。こういった点でもチームメイトの存在はとてつもなく大きかったですし、きつかった時でもチームメイトのサポートがあったからこそ今の自分があります。

写真提供:魁生佳余子氏

江畑:4年間を通して、チームメイトに助けられ続けてきたんですね。

原:あとは横のつながりという点でも本当によかったなと思うところがあります。

当時、下田学生寮という体育会生用の寮に住んでいたので、他の部の学生と関わる機会も多かったんですね。夜に寮の大浴場に行くと、同じくらいの時間に練習が終わった同級生とよく話していました。湯船につかりながらたわいもない話や部活の事、将来の夢の話などいろいろなことを話して、「自分も頑張っていこう」という活力を得ることができていました。同じような環境で頑張っている同級生だからこそ話せることもあると思っていて、それができる人たちが身近にいた環境はとても素晴らしいものだったなと今でも感じますし、当時は自分の心の支えとなっていました。

江畑:下田寮にそんなエネルギーがあるなんて知らなかったです。今もそのようなつながりの強さって言うところは今のお仕事をされていても感じる事はありますか。

原:とてもありますね。会社を退職させていただいた後、自転車で日本一周の旅を通じたメンタルヘルス普及啓発の活動を始めました。この活動を始めるにあたって、活動資金が必要となった時にクラウドファンディングのプロジェクト立ち上げたのですが、その時に支援をしてくださった方の約9割はそれまでの学生生活の中で繋がりのある人たちだったんです。小学校から大学までのクラスメイトやチームメイト、その親御さんや先生方なども応援をしてくださり、最終的に約260万円のご支援が集まり、何とかスタートラインに立つことができました。旅先ではバスケを通じて知り合った相手校の選手と再会したり、「その地域にいるなら地元の知り合いに繋ぐよ!」とサポートをしてくれる人もいました。日本一周という活動を始めて改めて、様々な繋がりの強さを感じることができたと思います。

正直、僕のことを助けてもその人にとって何かメリットがあったかというとそうではなかったと思います。ただ、損得感情だけではなく「こいつのためだったら少し協力してやろうかな。」と思ってもらえる存在になれていたことが自分の中では本当に嬉しかったです。

また、お互いがそういった存在になり得る可能性が高いのは、損や得を考えすぎずに人と関われる学生時代の大きな価値だとも思っています。

学生時代、社会人になってからも人の温かさに助けられてきた人生ですし、そういった繋がりという大きな財産を今後も大切にしていきたいと思っています。僕もそういった人たちに助けを求められた時に応援することができるような存在になっていきたいです。

2020年11月に実施したクラウドファンディング
情報元:https://readyfor.jp/projects/make-ics

江畑:人とのつながりの大切さが、今までとはまた違った角度から実感できて今とても新鮮な気持ちです。話は変わりますが、原さんにとって早慶戦とはどのような存在でしたか。

原:絶対に負けられないという使命感と負けたくないという強い気持ちが表れる舞台だったという印象があります。入部したての頃は、早慶戦に対して様々な人が思いを持って戦っているという話を聞くものの、現場を経験したことがない僕はそこにかける特別な思いはありませんでした。ただ、1年生の時に初めて早慶戦の舞台を目の当たりにして、これほど白熱する環境があるのかと強く心を揺さぶられ、様々な人が早慶戦にかける思いがあるということも理解できました。

その分、その舞台に立つことで背負う責任というものも強く感じました。楽しみだという気持ちもありつつ、チームメイトや応援してくれる人の気持ちに応えたいという思いもあり、チーム一丸となって勝利に向けて突き進んでいましたね。

これは個人的な話になりますが、当時の早稲田の選手は高校でも輝かしい成績を残しメディアでも注目されるような人たちで、自分からは遠い存在だと思っていました。ただ、大学進学後も努力を積み重ね、そのような選手たちと渡り合えたことはとても価値のある経験であったと思います。

早慶戦時の風景
写真提供:魁生佳余子氏

江畑:努力を積み重ねて、チームの力で上位のチームに挑んでいくようなスタイルは現在も健在していると思うのであとは結果を残せるよう頑張ります。ほかの慶應の強みは何だと思いますか。

原:バスケに向き合う姿勢とか、ここでやっていくぞという思いの強さは慶應の根っこの部分にある強みだと思います。大学という環境は選択肢も多く、やりたいことがあれば様々な活動ができます。その中でも体育会の環境でバスケを続けるという選択をしている人は、熱量高い環境でバスケがしたいとか、高校バスケで燃焼しきれなかったという人だと思うんです。そういったメンバーが学生時代の多大な時間を費やしてバスケに取り組み、チーム一丸となって戦っていく姿勢というのは慶應の強みであったと思います。

僕たちは当時関東2部リーグに所属しいて、下馬評では3部に落ちる可能性のあるチームとして見られていました。しかし、最終的には1部と2部の入れ替え戦に進出できるかもしれないというところまで順位を伸ばすことができました。

他の大学の選手の中には「去年の慶應のようなチームを目指そう。」と言ってくれる人もいたそうです。周囲の人たちにそう思ってもらえるチームはなかなかないと思いますし、チームとして誇らしかったです。試合自体は数十分程度ですが、そこに至るまで積み重ねや葛藤、思いという部分をプレーで表現できることが慶應の強みなのだと思います。

先輩方が作り上げてきた土台の上で、僕たちは全力でバスケに取り組むことができ、素敵な経験をたくさん積むことができました。そういった思いがある方々が次は後輩たちの活動環境のサポートにも回ってくださり、縦の繋がりの強さにも繋がっています。こういった繋がりの強さも慶應の強みの一つだと思いますね。

大学4年時、最終戦後の集合写真
写真提供:原匠氏

江畑:慶應というチームの組織としての強さがどこからくるものなのか、自分の中で判然としていなかったのですが、今回の話を聞いて根本からよく理解することができたと思います。

最後に、受験を検討している高校生に対して一言お願いします。

原:今までいろいろな慶應の良さをお伝えしてきましたが、最終的には自分が納得できる道を選んで欲しいと思っています。自分で調べたり人に聞いたりして、ここに行きたいと思える環境があればそこに本気で挑戦してほしいと思います。

僕が慶應への受験を希望した時には多くの人に支えてもらったので、同じように後輩のサポートをしたいと思っています。もし慶應を目指してくれるのであれば、助けてくれる現役生やOBもいます。もし迷っているのであれば、1人で悩まずにお問い合わせフォームやSNS、HPなどに連絡をして下さい。みなさんの力で道を切り開いてチームのメンバーに加わってもらえることをとても楽しみにしています。お互い、頑張っていきましょう!

江畑:以上でインタビューは終了です。本日はどうもありがとうございました。

教育現場での活動時の風景
写真提供:原匠氏