最近夢中になっていること:吉田壮一郎

 知的な雰囲気ととびきりの笑顔で周りを魅了する、男子バスケ部が誇るおしゃれ番長、尾原知依からバトンを受け取りました。慶應義塾大学文学部2年の吉田壮一郎です。拙い文章ではございますが、最後までお読みいただけると幸いです。

 最近、気がつくといつも本を開いています。街の喧騒のなかでも、部屋の静けさのなかでも、ページをめくる音だけが自分のリズムになっていくような雰囲気が好きで、いつの間にか本の世界に浸るようになっていました。

 とりわけ心を奪われているのが、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』です。物語の輪郭はどこまでも静かで、しかしその内面には、じわじわと身を焦がすような不思議な熱を帯びており、読んでいると、現実との境界線がゆらぎ、足元からふっと別の世界に溶け込んでいくかのような感覚を覚えます。淡々としているのに深く突き刺さる台詞、乾いた空気の中にさりげなく差し込まれるユーモア、孤独の中にある微かなぬくもり、そして矛盾していた世界の結合。そうした描写のひとつひとつが色となり、胸の奥を際限なく彩っていくのです。

 本を閉じたあとも、物語は終わりません。ふとした瞬間に脳裏をよぎるあの街並みや影の気配によって、私たちの生きる世界の外側に一枚の壁を隔てて、別の世界が存在しているかのような錯覚を覚えます。その感覚がたまらなく好きで、またページを開き、読書の世界に引き込まれていきます。

 部活に勉強に、忙しさに追われる毎日のなかで、読書は自分を取り戻すための静かな避難場所だと私は考えます。村上春樹の世界観に触れていると、世界はもっと柔らかく、多層的で、より密接に結びついているのではないか、そんな気さえしてしまいます。物語に身を委ねるその時間こそ、私が今いちばん夢中になっていることです。

 来年は3年生になり、気づけば私自身も物語の中で役割が変わる時を迎えようとしています。村上春樹の小説では、登場人物がふとしたきっかけで別の世界へ足を踏み入れるように、私にとっても来季は、ただ毎日をこなすだけではなく、チームを導く側へと静かにギアが切り替わっていく節目だと感じています。

 一つひとつの練習、一人ひとりとの関わり、そのすべてが物語の細かい描写のように積み重なり、やがて大きな世界がつくられていく、その世界の一部を紡ぐ存在として、私なりの貢献を積み上げていきたいと思っています。

 ここまでお読みいただきありがとうございました。末筆ではありますが、日頃よりご支援・ご声援いただいている皆さまに心より感謝申し上げます。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

 次は、器も人柄も大きく、チームの誰からも親しまれている生粋の世田谷ボーイ、城戸宏樹にバトンを渡します。

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