ラストブログ 山上雄大

「臥薪嘗胆」

はじめに

誠に僭越ながら自己紹介させて頂きます、慶應義塾大学経済学部経済学科並びに体育会バスケットボール部4年の山上雄大と申します。学生コーチを務めさせて頂いておりました。

正直なところを申し上げますと、これまでの4年間を振り返っても良い思い出はほとんどありません。早慶戦に勝ったこともなければ、2部に昇格したこともない、選手として通用せず、学生コーチとしても失敗ばかり。やり直したい過去がたくさんあります。

しかしながら、じゃあこの4年間は無駄だったのか、という問いにははっきりとNOと言えます。結果の出ない日々、思い通りに行かない日々、そんな日々の中で「どうすれば結果を出せるのか」「どうすれば上手くいくのか」ともがき、失敗した経験が自分を大きく成長させてくれました。

今回のラストブログではそんな自分の4年間についてお話しできればと思います。何も為しえていない私が語っても説得力はありませんが、最後までお付き合い頂けますと幸いです。

学生コーチになるまで

塾高出身の私は高校生の頃から体育会バスケットボール部に入部することを決めていました。早慶戦やリーグ戦での先輩方の素晴らしい姿を目の当たりにしたことで、自分もこのチームで活躍したいと強い憧れを抱いたことがきっかけです。

そして4年前、晴れて高校時代から憧れていた体育会バスケットボール部に入部しました。入部後はとにかくチームについていくことに必死でした。全体練習に参加することはできなかったので全体練習中はコートの端に立ち、全体練習前後の限られた時間で自主練習をこなすという日々を過ごしていました。自分みたいな下手くその自主練に付き合ってくれた同期のスタッフには本当に感謝しています。

そんな日々を過ごす内に1年目のシーズンは終わり、2年目のシーズンを迎えました。ここでコロナ禍による自粛期間となったのですが、この自粛期間が大きな転機となりました。

部活動と距離が空いたことで自分について客観的に考えることが増えたのです。そして、そこで率直に感じたのは「このまま選手としてやっていけるのか」ということでした。それまで目を背けていましたが、自分は同期や先輩方と比べても明らかに劣っていましたし、4月に入ってくる新入生に勝てる実力ではありませんでした。加えてこのチームはBチームが独立して活動しているわけではないので、全体練習に参加できない選手の存在意義は非常に難しいものがありました。かなりネガティブなことを書きましたが、当時はもっとネガティブでした。客観的に自分を見れば見るほど、自分の前に超えられない壁を感じてしまったのです。

そして下した決断が学生コーチへの転身でした。退部する選択肢もあったのかもしれません。しかし、高校時代から憧れて入部したにも関わらず、選手として通用しなかったから退部します、というのは自分の中でどうしても腑に落ちないことでした。どんな形でもいいから自分が憧れたこのチームで4年間やり抜きたい、この思いが決断の決め手です。

この決断について「よくサポートに回る決心をしたね」なんて言われますが、自分にとっては「選手として戦い続ける」ことから逃げてしまったという思いの方が大きいです。だからこそ「選手として戦い続ける」チームメイトや他部活の友人は凄いと純粋に感じますし、立場は違えど、自分も負けられないという思いで学生コーチをやってきました。

失敗を糧に

こうして新たなスタートを切ったわけですが、当初はチームにいてもいなくても影響のない存在だったと思います。先輩の学生コーチにも「お前に学生コーチができるのか?」なんて言われる有り様でした。転身するという決断に満足し、次のことを何も考えていなかったからでしょう。ただ、このままチームから必要とされない存在になるのは嫌だったので、学生コーチとして何を為すべきか、と模索し始めました。

そんな時、YouTubeでバスケットボール指導者のある言葉に出会います。それは「一番声を出して、一番走って、一番ディフェンスをやることが試合に出るための第一歩」という言葉でした(多少意訳です)。つまり、誰にでもできることを一番頑張ればいつか結果に繋がるよ、ということです。これは試合に出られない選手に向けての言葉でしたが、この言葉を自分の立場に置き換えるとすごく刺さるものがありました。

学生コーチとかではなく、まずは1人のスタッフとして「一番早く体育館にきて準備する、一番ボール拾いを頑張る」という誰にでもできることを誰よりも必死にやること。それが今後学生コーチとしての活動に必ず活きてくると信じて取り組みました。こんなことは自分で評価することでもありませんし、実際意味があったのかはわかりません。しかし、この取り組みは自分にとって大きな一歩となりました。

こんな感じで、最初こそ躓いたものの順調に軌道修正することができたわけですが、3年目に大きな失敗をしました。冒頭にも出てきたやり直したい過去の一つです。3年目はチームの体制が変わり、自分も3年生ながら最年長の学生コーチとなりました。これまで以上に役割も大きくなり、「自分がこのチームを勝利に導く」と強い決意を胸に春シーズンに臨みました。しかし春シーズンの集大成である早慶戦は惨敗。これまでやってきたこと全てが間違いだったと思わされると同時に、このままでは秋のリーグ戦も確実に結果が出ないだろうという絶望を感じました。

このままではいけない、そう思った私が取った行動はチームとの建設的な議論ではなく、周囲との衝突でした。相手の立場に立って物事を考えずに、ただただぶつかりました。本当に浅はかでしたし、影響力も大きくなった自分が取るべき行動ではありませんでした。でも、当時の自分は「自分は一生懸命やっているのに周囲が…」と思っていたのです。役割が大きくなるというのは時として恐ろしい勘違いを生み出します。たかが1年間の学生コーチ経験、そしてバスケットボールの知識に少し毛が生えた程度の自分が「自分はやれている」と思い込んでしまうのですから。こんな時こそ、学生コーチに転身した時のように客観的に自分を見つめられていればどれだけ良かったことかと思います。自分の実力不足が春シーズンの失敗を生み出していたことは疑いようのない事実でした。

ここまで書くと、秋シーズンも散々だっただろうと思ってしまうかもしれません。実際、秋のリーグ戦は結果を出すことができませんでした。しかし、チームには春と見違えるほど一体感がありましたし、自分も最終戦が終わった際には涙が溢れました。

それは何故か、4年生がチームを建て直してくれたからです。私には想像のつかないような苦労があったでしょう、ましてや春の失敗を押し付けてくるような私の存在は疎ましい以外の何者でもなかったはずです。しかしながら、彼らは最後まで私と一緒に戦ってくれました。リップサービスかもしれませんが「お前のおかげだ」と最後に言葉を掛けてくれました。だからこそ悔しかった。

4年目を迎えた今シーズンも、昨シーズンのことを忘れた日は一度たりともありません。「自分があの時こうしておけば」何度この後悔に駆られたことでしょう。

でも過去に戻ることはできません、だからこそこの経験を今後の財産にする責任が自分にはあります。

そしていよいよラストシーズンを迎えます。もうお腹いっぱいの文章かもしれませんが、あと少しお付き合い下さい。本来であれば3年生の失敗を糧に4年生で素晴らしい1年間を過ごすというストーリーが好ましいのかもしれませんが、私は4年生になっても失敗をしました。

「役割の中で輝く」ことができなかったことが原因です。これだけ言ってもよくわからないので、詳しくお話しさせて下さい。実は4年目にも体制が変わり、自分を取り巻く環境は再び変化しました。3年生の時に上手くいかなかったことを一つずつ修正し、今年こそ結果を出す。このようにラストシーズンを見据えていた私にとって、継続的なアプローチができないという点に多少の戸惑いもありましたが、新体制に期待を膨らませていたこともまた事実でした。

こうしてラストシーズンがスタートしたわけですが、当初は新体制で自分の役割を確立させることに苦心します。「自分はもっとできるのに」「もっとこうした方がいい」これまでの3年間の経験が、逆に自分の首を絞めたのです。自分でもどうしたらいいのかわからず、この時は本当に退部を考えました。悩める日々の中、一冊のビジネス本に出逢います。そこには「たとえ組織のためと思っても、役割を逸脱することは結果的に組織の混乱を招く」「役割の中で最大限の力を発揮することが組織の成功に繋がる」というようなことが書いてありました。まさに当時の自分を叱るかの如く書かれていた文章を読んでハッとしたことを覚えています。これをきっかけに自分の心境は大きく変わりました。学生コーチとして自分がチームから求められている事は何か、そしてその中で自分はどれほどの価値を発揮することができるのか。ここに自分の持つ全てを捧げました。残念ながらラストシーズンも春秋ともに結果を残す事はできませんでしたが、この経験も私にとって非常に大きな財産となりました。学生コーチとして最大限の価値を発揮することができたであろうラストシーズンに後悔は全くありません。

おわりに

ここまで長々とお付き合い頂きありがとうございました。不器用なりにもがき続けた私の4年間が少しでも皆さんのプラスになるとしたら、これほどまでに嬉しい事はありません。

何も考えずにベッドでYouTubeの指導者の言葉を聞いても、ビジネス本に書かれていた言葉に出逢っても、これほど心に刺さることは絶対になかったでしょう。自分が本気で失敗した経験があるからこそ、その言葉の本質が分かるのです。そして、それらが道標となり自分の成長へと繋げてくれました。

皆さんもこんな経験をしてみませんか?体育会はそんな経験ができる環境です。

コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスが叫ばれる昨今、体育会は推奨される組織ではないのかもしれません。10時間シュートを練習したら必ず試合でシュートが入るようになる保証はありません。アルバイトのように働いた分の対価を必ず得ることはできません。それでも、シュートを決めるために、勝つために本気で取り組むプロセスが必ず貴方を成長させてくれます。

大学生活で何をして過ごそうか迷っているのであれば是非体育会の世界に足を踏み入れて下さい。